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ジャズサンバとは

レビュー

Primo Trio / Sambossa

Primo Trio / Sambossa

tracks:

  1. Arrastão (2:03)
  2. Primavera (2:13)
  3. Vai No Balanço (2:08)
  4. Chuva (3:12)
  5. Do Jeito Que a Gente Quer (1:39)
  6. Deus Brasileiro (2:19)
  7. Preciso Aprender A Ser Só (3:10)
  8. Sambossa (2:18)
  9. Vivo Sonhando (2:16)
  10. O Sol Nascerá (2:12)
  11. Nanã (2:05)
  12. Minha Namorada (3:04)

member credit:

  • Primo Jr. (piano)
  • unknown (bass)
  • unknown (drums)

release year:

196?

label:

Musidisc

review:

whatmusicレーベルから再発されたジャズサンバの秘宝。オリジナルはMusidiscというレコード会社からのリリース。whatmusicレーベルによる同リイシューシリーズには、ヴィブラホン入りジャズサンバコンボ・Breno Sauer Quarteto(ブレーノ・サウエル・クァルテート)&Zumba Cinco(ズンバ・シンコ)、Rio 65 Trioの別名トリオ・Salvador Trio(サウヴァドール・トリオ)、ドラマーJorge Autuori(ジョルジ・アウトゥオーリ)によるJorge Autuori Trio等が名を連ねていますが、本作"Sambossa"はそれらを差し置いてでもまず入手するべきジャズサンバの傑作であると思います。

本作の主人公たるピアニストの名は、João Peixoto Primo(ジョアン・ペイショート・プリモ)。通称、Primo Jr.(プリモ・ジュニオール)という名で知られ、リーダー名義では本作の他に、七重奏によるバランソ作品"Pinta O Sete"、上述Breno Sauer Quartetoのドラム、ベース、ヴィブラホンにペット奏者Claudio Roditi(クラウディオ・ロディティ)を加えた五重奏によるメキシコ音源・"Bailando Bossa Nova en el Camichin"、同メンバーによるPery Ribeiro(ペリー・ヒベイロ)の歌伴音源(やはりメキシコ録音)があります。とあるレビューサイトにはその他にも1965年発表のデビュー作の存在が示されていますが、残念ながらCDにてリイシューされたという話は耳にしていません。

さて、このwhatmusicのリイシューシリーズ。貴重な音源を再発してくれるのは誠にもってありがたいことなのですが、資料的な側面からいうと相当にいい加減なことが多く、発表年はおろか、メンバーの表記がないということも珍しくはありません。本リイシューはまさにその最たるものであり、Primo Jr.以外のメンバーがまったく特定出来ないのは残念なところではありますが、前述のサイトに載っている1stのメンバー(ベースがTancredo Oliveira、ドラムがLuis Sergio Pacceというメンツ)がそのまま演奏している可能性も、考えられなくはない。また、①1stが1965年発表で、1967年にはメキシコに渡っている点、②Breno Sauer Quartetoが同じMusidiscレーベルから1965年、1966年と立て続けにリーダー作を発表しているそのリリースペースから考えると、1966年前後の発表作であることも推測できます。まああくまで推測の域をでないのですが。

そんな訳で、詠み人知れず的冷遇を甘受するベースとドラムですが、このような不当な扱いとは裏腹に素晴らしいサポートを展開しています。ベースはジャズサンバの定石通りといった手堅いリズムパターンで全体を支える役に徹し、そのベースに包まれながら繰り出されるドラムの多彩なアクセント表現が全体の演奏レベルを一層押し上げているように感じます。秀逸な録音バランスも相まってジャズサンバの好グルーヴを聴かせてくれます。

選曲もツボを押さえています。

Elis Reginaのボーカルバージョンが特に有名な一曲目の'Arrastão'は、Edu Loboの作曲。Elis Reginaの伴奏を務めたJongo Trioに代表されるように、この曲はAメロとサビとでリズムチェンジを施すアレンジが一般的ですが、ここでは終始ストレートなジャズサンバのリズムで演奏しています。続く'Primavera'はCarlos Lyraが作曲したボッサノヴァ随一の名バラードですが、Primo Trioはミディアムジャズボッサとして軽快に演奏していて、その意外性が新鮮な印象を与えてくれます。このトリオは基本的に直球勝負を好む傾向があるように思われるのですが、それがバンドとしての大きな特徴となっているようです。3曲目の'Vai No Balanço'はChico Buarqueによる作曲。ジャズスタンダード'I Got Rhythm'を思わせます。ソロも短めにあっさりと終了。'Chuva'はジャズサンバの偉大な作曲家Durval Ferreiraによる感傷的な旋律が印象的なバラードでSansa Trioの大名盤"Vol.2"なども取り上げています。平素は元気一杯のPrimo Trioですが、比較的抑えた演奏を展開しています。5曲目の'Do Jeito Que a Gente Quer'はハードバピッシュなジャズサンバクインテットSambossa 5(サンボッサ・シンコ)の1stでも演奏されたジャズサンバクラシック。どちらの演奏も必聴に値する名曲です。'Deus Brasileiro'はMarcos Valleが作曲したボッサスタンダード。作曲者自身の"O Compositor E O Cantor"に収録されたバージョンも名演ですが、ジャズサンバシーンではConjunto Som 4(コンジュント・ソン・クアトロ)、ギタリストGerald Vespar(ジェラウド・ヴェスパール)らが録音を残しています。ここでの演奏は比較的ゆったりとしたテンポで軽やかに展開。コーダでリットして軟着陸。

後半。'Preciso Aprender A Ser Só'は再びMarcos Valleによって作曲された内省的なバラード。「一人でいることを学ばなくちゃ」という邦題も曲調によく合っています。ジャズバラード風に演奏されることも多い楽曲ですが、ジャズサンバのグルーヴを維持したアレンジをとっています。続く'Sambossa'はMusidiscレーベルの主宰者Nilo Sergioが作曲したクラブ受けしそうなキラーチューン。レーベルメイトであるBreno Sauer Quartetoも録音していて、そちらの演奏は実際クラブ・クラシックとして人気を得ていたようです。怪しげなAメロと、循環ものを髣髴とさせるサビの対比が印象的な一曲です。'Dreamer'の英題でも知られる'Vivo Sonhando'はブラジルが世界に誇るTom Jobim(Antonio Carlos Jobim)先生が作曲したボッサスタンダード。ジャズサンバのお手本のようなグルーヴを撒き散らします。10曲目の'O Sol Nascerá'は、ボッサノヴァとか、ジャズサンバといった括りでは収まらない珍しい選曲。Elton MedeirosとCartolaという偉大なサンビスタによって作曲されたサンバの名曲でCartolaの代表曲と言ってもよいかもしれません。ジャズサンバでCartolaの楽曲を取り扱っているのは僕が知る限りではこの演奏だけのように思われます。本作のハイライトかもしれません。'Nanã'は鬼才Moacir Santosによるブルースフィーリング溢れるボッサスタンダード。ペダルポイントによるイントロから始まる'Minha Namorada'は'Primavera'同様、本来バラードで演奏されるべきボッサスタンダードですが、疾走感のあるジャズボッサ調にアレンジされていて、これが意外といいアレンジ。確信犯的にテンポを上げてノリのいい演奏に仕上げることで自らの特徴を活かそうとしているように思われます。テーマ終了後再びペダルに移行しコーダ。爽やかなあと味を残して幕を閉じます。

ジャズサンバシーンにあって、このPrimo Trioは知名度が高いとは言いがたいマニアックさがありますが、ジャズサンバの代表作と並べてもなんら遜色ないクオリティを有しており、それらと並び称されるに充分値する内容であると思います。できることならデビュー作も聴いてみたいものです。(再発求ム)

(2010.06.18)