ジャズサンビスタス

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ジャズサンバとは

 ジャズサンバ、サンバジャズ、ジャズボッサ、ボッサジャズ・・。それをどのように呼ぶかは様々あるようですが、ジャズ・サンビスタスのベース奏者本間氏はそれを「今からおよそ半世紀前のブラジル音楽シーンにおいて突如として流行した、ちょっと風変わりなモダン・ジャズ・ムーヴメント」と(勝手に)定義しています。メジャーなジャズ・メディアからはほとんど取り上げられることのないにも関わらず、ジャズの即興手法とサンバの開放的なリズムが奇跡的に融合したこの音楽を愛する人は、現在でも決して少なくはないと伝えられています。少しその歴史を紐解いていきましょう。

 1950年代後半、アメリカのジャズシーンは大きな転換期を迎えつつありました。トランペット奏者マイルス・デイビスが押し進めたモードジャズという演奏手法、アルト・サックス奏者オーネット・コールマンが提唱したフリージャズなど、新しいジャズの形が次々に生まれる状況の中で、ギタリスト、チャーリー・バードが親善大使の一員としてブラジルを訪れたのを契機として、その頃同国で流行していたボサノヴァという目新しい音楽にアメリカ国内でも一気に注目が集まることとなります。ブラジルから帰国したチャーリー・バードがテナー・サックス奏者のスタン・ゲッツと吹き込んだ1962年発表の『ジャズ・サンバ』はジャズ・ミュージシャンによるはじめてのボサノヴァ・アルバムといわれています。翌1963年、アルト・サックス奏者キャノンボール・アダレーがブラジルに単身乗り込んで地元ミュージシャンと制作した『キャノンボールズ・ボサノヴァ』という作品は、ボサノヴァと銘打ってはいますが、演奏形態はジャズサンバそのものであり、1964〜65年に隆盛を迎えるジャズサンバシーンに直接的かつ多大な影響を与えたジャズサンバの先駆け的名作となりました。

 当時、ブラジルのナイトクラブでは夜な夜な地元ミュージシャン達によるジャムセッションが繰り広げられていました。アメリカジャズ界のボサノヴァへの接近という波に触発された彼らが、仕事後のセッションや自分たちのバンド活動を通じて、ジャズと、ボサノヴァと、サンバとをごった煮したような奇妙奇天烈なジャズを演奏しはじめます。ジャズの即興演奏にサンバのグルーヴを融合させたこの音楽はジャズサンバという「幻」ともいえるモダン・ジャズ・ムーヴメントを確立し、さらには当時のブラジル歌謡曲を支える一大伴奏スタイルともなりました。1964年〜1966年頃にかけて、テノーリオ・ジュニオール、サンバランソ・トリオ、ミルトン・バナナ・トリオ、ジンボ・トリオ、ボッサ・トレス、マンフレッド・フェスト・トリオ、ボッサ・ジャズ・トリオ、リオ65トリオ、サンブラーザ・トリオ、サンサ・トリオ、サンボッサ・シンコ、ルイス・ロイ・キンテート、ジョンゴ・トリオ、セルジオ・メンデスとボッサ・リオ・セクステット、メイレウレスとコパ・シンコ、トリオ3-D、ジョルヂ・アウトゥオーリ・トリオといった数多くのジャズサンバコンボが録音を残し、ジャズサンバは一気に全盛期を迎えます。

 しかしジャズサンバの人気はさほど長くは続きませんでした。もともとブラジルは歌ものを好む土地柄であったこと、1964年に成立した軍事政権が文化人を筆頭に多くの人々を弾圧しはじめ国内の音楽シーンが歌のないインストルメンタル・ミュージックではなくプロテスト・ソングを求めはじめたこと、世界的にヒットしていたビートルズの人気がブラジルにも押し寄せサウンド的にもエレクトリック・ミュージックを求めるようになったこと。これらがジャズサンバを斜陽へと向かわせることとなったのです。

 完全に息絶えたかに見えたジャズサンバはしかし、1990年代イギリスのDJ達によって見事復興を果たします。テノーリオ・ジュニオールの「ネブローザ」や「フィン・ヂ・セマーナ・エン・エルドラード」、サンバランソ・トリオの「サンブルース」といった曲がキラー・チューンとして「発掘」されクラブ・シーンにおいてリバイバル・ブームが起こりました。そのブームの余波は日本にも及び、以降今日に至るまで断続的にジャズサンバ諸作品の再発が行われるまでに至っています。

ジャズサンバの代表作

Stan Getz & Charlie Byrd / Jazz Samba (1962)

Jazz Samba ジャケット

親善大使の一員としてブラジルへ渡ったアメリカ人ギタリスト、チャーリー・バードがボサノヴァという音楽に魅了され、帰国後テナーサックス奏者のスタン・ゲッツと吹き込んだジャズミュージシャンによるはじめてのボサノヴァアルバム。アフロキューバン的なノリが混在するなど、リズム面でちぐはぐなところがあるものの、後のジャズサンバ誕生の契機ともなった大名盤でその歴史的な価値は極めて高い。なにより「Desafinardo」や「O Pato」における演奏は、ただただ感動的。ボサノヴァ/ジャズサンバの誕生云々を抜きにして必聴に値する名演である。

Cannonball Adderley / Cannnonball's Bossa Nova (1963)

Cannnonball's Bossa Nova ジャケット

アメリカ人アルトサックス奏者、キャノンボール・アダレーがブラジルのミュージシャンと組んで制作したジャズサンバの先駆け的名作。ボサノヴァと銘打っているが演奏形態はジャズサンバそのものであり、1964〜65年に隆盛を迎えるジャズサンバシーンに直接的かつ多大な影響を与えた。バックのミュージシャンもセルジオ・メンデス、セバスチアン・ネト、ドン・ウン・ホマン、ドゥルヴァウ・フェレイラ、パウロ・モウラというジャズサンバシーンにおける重要人物が揃っている。ジャズサンバの聖典ともいうべき最高のインプロヴィゼーションが聴ける。

Tenório Jr. / Embalo (1964)

Embalo ジャケット

伝説的なピアニスト、テノーリオ・ジュニオールの残したリーダー作。このアルバムに収録されている「Fim de Semana em Eldorado」や「Nebulosa」といったキラーチューンが1990年代のクラブシーンで再評価されたことが引き金となり、ジャズサンバリバイバルが進んだことは間違いない。現在でも頻繁にリイシューされる人気盤で「ジャズサンバの金字塔」と目されることも多い。'実際、「Fim de Semana em Eldorado」を聴かずしてジャズサンバは語れないと思う。

Sambalanço Trio / Sambalanço Trio (1964)

Sambalanço Trio ジャケット

セザール・カマルゴ・マリアーノ、ウンベルト・クライベール、アイルト・モレイラという錚々たる実力者が一堂に会したピアノトリオの1st。一曲目の「Samblues」はジャズサンバを象徴する名曲として名高い。この作品を思い浮かべると同曲のもつスリリングで激しいイメージがどうしても抜けないのだが、アルバム全体としてはピアニストの音楽的嗜好・世界観が前面に出た、「夜のジャズサンバ」とでもいうべき奥深く静寂な表現を内包している。

Milton Banana Trio / Milton Banana Trio (1965)

Milton Banana Trio ジャケット

上述『Jazz Samba』の成功をうけ、スタン・ゲッツがジョアン・ジウベルト、アントニオ・カルロス・ジョビンらと制作した『Getz/Gilberto』においてバックを務めたドラマー、ミウトン・バナナが、自己のトリオで録音したジャズサンバ作品。ボサノヴァの名曲をピアノトリオというジャズ的なフォーマットで熱くインプロ(即興)するという、ジャズサンバの典型的な演奏が収められている快作。

Manfredo Fest Trio / Manfredo Fest Trio (1965)

Manfredo Fest Trio ジャケット

ジャズサンバ史上最もスリリングな一枚であることは間違いない。演奏力、アンサンブル、凝ったアレンジ、爽快なグルーヴ感、選曲、録音。全てが文句のつけようがない程の出来。ジャズサンバでオススメを何か一枚といわれたら迷うことなくこのアルバムを挙げるであろうジャズサンバの決定盤。通称、「マンフレッドの黒いやつ」。

Sansa Trio / Vol.2 (1966)

Vol.2 ジャケット

ジャズサンバドラムの魅力を堪能できる名作。後に渡米しエレクリックジャズ/フュージョンシーンの重要人物となるアイルト・モレイラによるイマジネーション溢れるドラミングは、一般的なジャズサンバドラムの語法からはかけ離れたものであるが、何度聴いても飽きることのない豊かさをもっている。録音、全体の音のバランスも素晴らしい骨太な作品。

参考リンク