ジャズサンビスタス
1965
Philips
ビバップのアドリヴ手法に2ビートを主体としたサンバのリズムを組み合わすことで生まれたジャズサンバは、1960年代半ばからわずか数年間という極めて短命なムーヴメントではあったものの、非常に強力なグルーヴといかにもブラジルといった旋律の美しさでもって、聴く者を魅了する優れた音楽であると言えるでしょう。で、多くのジャズサンバ作品を聴くにつけ、どうも僕にはこのRio 65 Trioというトリオこそが、そのジャズサンバという音楽を最も端的に表現している存在であるように思われるのです。
このRio 65 Trioのメンバーは、まずピアニストが自己のトリオも率いた黒人ピアニストDom Salvador。ベースはTenório Jr.の名盤"Embalo"セッションにも参加した実績を持つSérgio Barroso。そしてドラムに初期Bossa Três、Meirelles E os Copa 5をはじめ、数々のセッションを渡り歩いたジャズサンバシーンの重要人物Edison Machadoというそうそうたる顔ぶれによって構成されたトリオで、2003年になってようやく再発の日の目をみたジャズサンバコンボのひとつです。
冒頭'Meu Fraco É Café Forte'はDon Salvadorによるオリジナル。ジャズサンバトリオのオープニングにふさわしいハードコアな高速ジャズサンバが展開されます。(ただ少し力が入り過ぎているようにも感じますが、そこはご愛嬌。)
続く'Preciso Aprender a Ser Só'(邦題「一人でいることを学ばなくちゃ」)はMarcos ValleとPaulo Sérgio Valle兄弟による有名なボッサスタンダードで、ジャズサンバにおいても非常に多くのコンボが録音を残しています。Rio 65 TrioはElis Reginaの"Samba, Eu Canto Assim"でもバッキングを務めています。
'Farjuto'はジャズスタンダード'Sophisticated Lady'のAメロフレーズが引用されたDon Salvadorのオリジナルです。ピアノのソロが終わりベースソロに入る前にユニゾンによるセカンドリフが用いられていて、楽曲の構成を引き締めていると考えられます。
'Desafinado'はAntonio Carlos Jobim作曲による言わずもがなのボッサスタンダード。ジャズミュージシャンStan GetzとCharlie Byrdによる"Jazz Samba"における演奏がわけても有名ですが、この録音が米国におけるボサノヴァブームの先駆けとなったため、Quincy Jonesの"Big Band Bossa Nova"等ジャズ繋がりの録音/名演が多いようです。全体の尺が長いためジャズサンババンドはあまり演奏しませんが、Rio 65 Trioによるこの演奏は数ある'Desafinado'の録音の中でも最もハードで最も速く、最も熱のこもった演奏であると思います。
'Sonny Moon For Two'はSonny Rollins作曲のブルースナンバー。この曲はジャズサンバシーンでは比較的受けが良く、'Samba Em Blues'という曲名でSansa Trioも録音を残しています。この選曲からも窺えるように、Rio 65 Trioはハードバップ志向が他のバンドと比べると格段に強く演奏の進行も典型的なテーマ−ソロ−テーマスタイル。ジャズサンバでは、Manfredo Festのようにアメリカ西海岸のジャズに影響を受けたアレンジ志向のミュージシャンが少なくありませんが、そのような中にあってインプロ一本で勝負していく姿勢には好感を持ちます。
'Espera De Você'はDon Salvadorによるオリジナル。牧歌的なバラードといった趣で小休止的な一曲です。
'Mau, Mau'はジャズトランペット奏者Art Farmerによるジャズチューン。ここでは軽快なジャズサンバとして新たな命を吹き込まれているようです。この楽曲のオリジナルは1953年に発表された"The Art Farmer Septet Plays the Arrangements and Compositions of Gigi Gryce & Quincy Jones"に収録されています。
'Tem Dó'はBaden PowellとVinicius de Moraesによるジャズサンバスタンダード。Ana Lúcia、Elis Reginaといったブラジルのボーカリストが歌っており、Rio 65 Trioがバッキングを勤めた前述Elis Reginaの"Samba, Eu Canto Assim"では'Consolação'、'Berimbau'(いずれもBaden Powellのオリジナル)と併せてメドレーで歌われています。ここではブレイク部分にSérgio Barrosoのベースをフューチャーしたアレンジで熱演を繰り広げています。
'Azul Contente'はアレンジャーWalter Santosが作曲したメロウなナンバー。Claudette Soaresのデビューアルバムにも収録されていています。
'Manhã De Carnaval'はLuiz Bonfá作曲のマイナーバラード。Aメロ冒頭で少しリズムアクセントをつける以外はストレートに演奏しています。
アルバムの最後を飾るのはCarlos LyraとVinicius De Moraesによる美しいバラード、'Minha Namorada'。熱い演奏を旨とするRio 65 Trioもこの名曲に対しては素直なバラード表現に徹しています。ブロックコードを主体とした演奏によってメロディが引き立てられていて、数ある'Minha Namorada'の中でも特に心に残る演奏であると思います。
総括するにRio 65 Trioはインプロとアレンジのバランス感覚に優れたバンドであるように感じられます。ジャズサンバの諸作品の中でも最もハードバップ的な要素が強い作品であり、また、熱い演奏でもって聴く者を心躍らせる力をもった快作であると言えるでしょう。モダンジャズがお好きな方はこのトリオからジャズサンバを聴き始めると入っていきやすいかもしれません。ただし、残念ながら現在は廃盤になっているようで中古市場では5000〜6000円ほどするようです。(あの時買っといて良かった)
(2003.10.09 ver.1.2/2009.07.28)