ジャズサンビスタス
1965
RGE
「最盛期にはメジャー/マイナー含め1000以上のグループがしのぎを削った」※1と伝えられるブラジルのジャズサンバムーヴメントの中でも特に超名門と呼ぶに値するピアノトリオといえばZimbo Trio(ジンボ・トリオ)をおいて他にはありません。メンバーの演奏技術/アレンジ能力の高さは言うまでもなく、その華々しい活動履歴や2001年まで続く※2息の長い活動期間を考えると、このトリオこそがジャズサンバの歴史そのものであったとも言えるのかもしれません。ところが、そのZimbo Trioのセカンドアルバムは長らくCD化されないままでいました。発表された年や、収録曲を考えるとCD化されないことは考えられないことでしたが、2011年になってBOXセットのうちの一枚という形ではありますがようやくCD化が実現されたということはジャズサンバ愛好家にとってまったく慶ばしい限りです。
で、Zimbo Trio。結成は1964年。リーダーはベース奏者のLuiz Chaves(ルイス・シャヴィス)。彼の経歴はジャズサンバ時代以前から既にスタートしており、1958年にはドラムのRubens Barsotti(ルーベンス・バルソッティ:通称ルビーニョ)らとBrazilian Jazz Quartet名義で"Coffee & Jazz"という真面目なジャズ作品を発表しています。ピアノはHamilton Godoy(アミウトン・ゴドイ)。ジャズサンバでGodoyというと、重要人物が3人いて、まずひとり目は作曲家のAdylson(アジウソン)、次にこのHamiltonが続き、最後にBossa Jazz TrioのピアニストAmilson(アミウソン)。全部で何人兄弟だったのかは不明ですが彼らが兄弟であったことは確かであり、ゴドイ家はブラジルの名門音楽一家と言うべきでしょう。それはともかく、トリオの成り立ちとしては既にキャリアのあった中堅2人に若手のピアニストが抜擢された形であると考えられます。
アルバムは1作目と同様ルビーニョによるタムを使った性急なドラムパターンで幕を開けます。Edu Lobo(エドゥ・ロボ)によって作曲された'Arrastão'は、第1回ブラジリアンポピュラーミュージックフェスティバルでElis Regina(エリス・レジーナ)がこれを歌い優勝し、ブレイクするきっかけとなった楽曲でもありますが、彼女と数々の共演を果たしてきたZimbo Trioがこの曲をレパートリーとしたのも当然のことかもしれません。2曲目'Balanço Zona Sul'は歌手のTito Madi(チト・マヂ)作曲による牧歌的な旋律をもったボッサナンバー。比較的単調なコード進行と構成なのでジャズサンバで演奏される場合は何がしかのアレンジがなされることが多いですが、この演奏でもソロに入ると転調して変化をつけています。'Zomba'は有名なボッサギタリスト/歌手のLuiz Bonfá(ルイス・ボンファ)による作曲。ピアノとベースの弓弾きによる重々しいイントロから一変、テーマ〜ソロは疾走感のあるジャズサンバを展開し、演奏も次第に熱を帯びてきます。続く'Insolação'は先ほど触れた兄のアジウソンが作曲したマイナー調の高速ジャズサンバ。アミウトンはここぞとばかり、殺人的な高速テンポでも寸分違わぬテクニックを披露しています。3曲目と名前が似ている'Zimba'の作曲は「Tito」とありますが、'Balanço Zona Sul'のチト・マヂと同一人物かどうかは確証が持てません。ブラジルものの作曲者クレジットはこういった苗字抜けや渾名表記が頻発するので注意が必要です。楽曲自体は静的なパートと動的なパートの対比が印象的な構成になっています。6曲目の'Reza'は1曲目と同様エドゥ・ロボによる作曲。ジャズサンバでも頻出のスタンダード。Manfredo Fest Trioや、Bossa Jazz Trioでは緩急の激しい凝ったアレンジを展開しますが、Zimbo Trioはけっこうストレートに演奏している、と思ったのですがそうでもなかった。しかし終始スピード感を持続するカッコいい演奏であると思います。こちらもエリス・レジーナのレパートリー。
LPでいうB面冒頭にあたる'Samba 40 Graus'は再び兄アジウソンの作曲。こちらも'Insolação'に負けず劣らずの高速ジャズサンバに仕上がっています。'Garota De Charme'はいかにもボサノヴァといった可愛らしいメロディをもった佳作です。ルイス・ボンファ作曲。CD化にあたってこの曲のライヴ演奏がボーナストラックとして収録されました。ボサノヴァ界きっての海人Roberto Menescal(ホベルト・メネスカル)によって作曲された'Vai De Vez'はボサノヴァでもちょくちょく取り上げられる楽曲。ここではルイス・シャヴィスによるベースソロがフューチャーされています。ブイブイいってます。'Balada De Um Sonho Meu'はピアニスト、アミウトンのオリジナルナンバー。ピアノの響きとベースの弓弾きが美しいバラードで、ゴリゴリのジャズサンバが続く中にあって一服の清涼剤的な雰囲気を醸し出しています。ほのかなサウダージ感が漂う'O Rei Triste'はルイス・シャヴィスのオリジナル。ここでもベースソロにスペースが割かれています。個人的な印象ではありますが、ルイス・シャヴィスのプレイは、その技術の高さと音色(それが一番大きい要因なのですが)からでしょうか、米国のジャズベーシストRay Brown(レイ・ブラウン)に通じるものがあるように感じます。ラストの'Aleluia'は三たび登場のエドゥ・ロボ作。こちらもエリス・レジーナの当時のレパートリーとして知られています。Zimbo Trio以外ではSambrasa Trioの演奏が有名です。
本作を聴いて後思うのは、この作品が長らくCD化されなかったという事実がまったく信じられないという点に尽きます。1965年というジャズサンバの最盛期の発表作であること、ジャズサンバ愛好家にとって魅力的な曲目が並んでいること、そして捨て曲の無い充実の内容とその熱い演奏。惜しむらくは、この作品が現在のところBOXセットでしか手に入らないというところでしょう。これらはもっと多くの視聴機会が与えられてしかるべきであると思います。
(2012.02.26)