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ジャズサンバとは

レビュー

Cannonball Adderley / Cannonball's Bossa Nova

Cannonball Adderley / Cannonball's Bossa Nova

tracks:

  1. Clouds (4:51)
  2. Minha Saudade (2:21)*
  3. Corcovado (6:43)
  4. Batida Diferente (3:26)*
  5. Joyce's Samba (3:12)*
  6. Groovy Samba (4:59)
  7. O Amor Em Paz (7:47)*
  8. Sambop (3:32)*

member credit:

  • Cannonball Adderley (alto sax)
  • Paulo Moura (sax)*
  • Pedro Paulo (trumpet)*
  • Durval Ferreira (guitar)
  • Sergio Mendes (piano)
  • Octavio Bailly Jr. (bass)
  • Dom Um Romão (drums)

recording date:

1962.12.7,10-11

label:

Riverside

review:

ブラジル音楽にはジャズサンバというちょっとマニアックなカテゴリーがあります。ジャズに影響を受けたブラジルのミュージシャンが、自国で作曲された楽曲とサンバというリズムを土台にして1960年代の前半に完成させた非常に豊かな演奏形式であり、それはまさにブラジル人にしか作り得なかったジャズの一大様式といっても過言ではないのではないかと考えています。

彼らブラジルのジャズメンが独自のジャズを作り上げていく過程で、自分たちが進むべき道筋を示し勇気と自信を与えてくれたのが、アメリカのアルトサクソフォニスト、キャノンボール・アダレーによる本作だったとは考えられないでしょうか。ピアノ、リズムギター、ベース、ドラムというシンプルながらも最もボサノヴァらしい編成をベースに、ジャズ的なアレンジとしてホーンセクションが加わる形をとっているのですが、リズムのあり方、演奏の方法論等は、数年後の諸作品で聴くことのできるそれとまったく変わりがないということからも、本作の重要性が伺えます。

参加メンバーは当のキャノンボール・アダレー以外全員ブラジル人。スタン・ゲッツの有名な"Jazz Samba"がアメリカのミュージシャンのみで勝手に作り上げられた作品であることを考えると、キャノンボールのブラジル音楽に対する真摯な姿勢といったものが伝わってきて好感が持てます。参加メンバーの中でまず目を引くのがセルジオ・メンデス。後に渡米しブラジル'66を始めとしたユニットでブラジリアンラウンジミュージックを担う存在になる人物ですが、1964年にブラジルのボサノヴァレーベルELENCOから発表されるリーダー作"Bossa New York"では真面目にジャズサンバに取り組んでいて、本作に収録されている'Batida Diferente'も再録しています。ギタリストとして参加しているドゥルヴァル・フェレイラはこのアルバムに4曲の自作曲を提供しています。特に'Clouds'、'Batida Diferente'などは多くのジャズサンバミュージシャンが取り上げるジャズサンバスタンダードとなっていて、本作でも聴き所となっているように感じます。ちなみに彼はこの他にも'Chuva'、'Estamos Aí'などの名曲を多数残している非常に優れた作曲家でもあります。ベースのオクターヴィオ・バイリーはセバスチァン・ネトの後釜として第2期ボッサ・トレスに加入することになる人物。Rio 3というピアノトリオにも参加しています。ドラムのドン・ウン・ホマォンはアントニオ・カルロス・ジョビンの大名盤"Wave"でも叩いているジャズサンバシーンの重要ドラマー。ホーンセクションとして参加しているペドロ・パウロとパウロ・モウラはソロの出番がないため雑魚キャラと思われがちですが、ジャズサンバシーンでは数々の重要作品に参加している実力者です。

アルバムはギタリスト、ドゥルヴァル・フェレイラとマウリシオ・エイニョルンによる'Clouds'で幕を開けます。美しい旋律とコードの流れの中に時折見え隠れする、もの静かで切ない感じがジャケットにあるリオの全景写真と相まって、このアルバムの持つ雰囲気を象徴しているように感じます。個人的にはジャズサンバの作品の中でも一、二を争う名演であると思っているのですが。続く'Minha Saudade'は当時アメリカを本拠地に活動していたブラジル人ピアニスト、ジョアン・ドナートが作曲したジャズサンバスタンダード。セルジオ・メンデスのピアノソロに続いてアルトソロに。バックのドラムのリムショットが爽快な気分を醸します。アントニオ・カルロス・ジョビン作曲の'Corcovado'はスタン・ゲッツとアストラッド・ジルベルトが共演した"Getz Au Go Go"での演奏などで有名なボッサスタンダードですが、実はジャズサンバではそれほど演奏されていない楽曲かもしれません。ここでのキャノンボールはスピード感溢れるフレーズととたっぷりの歌心を対比させることで見事としかいえないインプロヴィゼーションを展開しています。'Batida Diferente'は前述したようにセルジオ・メンデスをはじめ多くのジャズサンバミュージシャンに演奏されることになりますが、ここに収められた演奏はそのお手本となったであろう代表的な演奏であるといえます。サポートに徹するドゥルヴァル・フェレイラのギターがなんとも心地よいリズムを刻んでいます。

5曲目'Joyce's Samba'は一転して落ち着いたテンポの楽曲です。どこか物悲しい雰囲気に包まれた小休止的な楽曲であるといえるでしょう。続く'Groovy Samba'はセルジオ・メンデスによって作曲されたマイナージャズサンバ。夜な夜なジャムセッションを繰り広げていた頃のセルジオ・メンデスらしいストレートなブルースフィーリングを内包したメロディが印象的です。'O Amor Em Paz'は'Corcovado'同様、ジャズサンバではあまり演奏されないボッサバラードですが、それゆえにこの演奏はジャズサンバシーンにおける同曲の代表的な演奏といえるでしょう。ソロの終盤で'Everything Happens To Me'というジャズスタンダードが引用されます。ラストはやはりドゥルヴァル・フェレイラとマウリシオ・エイニョルンの共作'Sambop'で元気良く終了します。

絶妙なフェイク、たっぷりの歌心、サンバのリズムに乗った豪快なブロウ、変幻自在のインプロビゼーション。まさにジャズミュージシャンの本領発揮といったところでしょうか。すべての楽曲、そしてすべての演奏が本当に素晴らしくて胸に染み入ります。ブラジルのミュージシャンがこの作品から学んだことは少ないことでしょう。ジャズとブラジル音楽の邂逅といった意味でも、ジャズサンバの歴史的な名演といった意味でも、重要な位置づけにある作品です。

(2004.02.22 ver.1.3/2025.02.28)